【移住者インタビュー】「別府さん一家」無農薬の野菜作りと、大家さんとの温かな暮らし。

別府さん一家「大家さんと、隣り合わせて暮らす。」

~無農薬の野菜作りと、大家さんとの温かな暮らし~

 別府(べっぷ)伸一(しんいち)さん 梢(こずえ)さん 一輝(かずき)くん(9歳)

平成27年に飯地町に移住。夫婦で新規農業をはじめ、無農薬無肥料にこだわった野菜作りをしている。

飯地町を選んだ理由は「まだ若手で農家をやっている人がいなかったから。」

高身長の伸一さん。“日本一身長が高い農家”を目指す。

令和2年、町内の大きな古民家の母屋に引っ越し。現在、大家さんと仲睦まじく隣合わせて暮らしている。

写真は初めて挑戦した田んぼにて。

 

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❝「よくこんなに野菜が食べられるようになったなぁとおもう。」❞

息子の一輝くんをみて、目を細める伸一さん。

野菜が苦手だった小学3年生の一輝くんは、なんと今ではおやつのかわりに、「野菜のおかず」を食べるそうだ。

そのヒントは、どうやら大家さんとの新しい暮らしにあるようだ。

 

―農業をはじめるべく、飯地町に移住。

 

別府さん一家は、2017年に恵那市内から新規農業をはじめるべく、飯地町に移住した。

“農業をやるから飯地町に移住する”と言い出した伸一さんに、梢さんは「もう決まっていたから仕方がなかったです。」と当時を振り返り、優しくほほ笑む。

「カントリーファーム」という屋号で、就農4年目。約1haの畑を借りて、無農薬で色々な種類の野菜を作っている。

「はじめは無農薬にこだわるつもりはなかったが、農家の先輩たちの話をきいて無農薬をえらんだ。農薬の知識がなかったから使うのが怖かったから。

あと、自分が持病もあるので、なるべく安全なものを食べたいと思った。」と伸一さんは語る。

「自分で作ったきゅうりを初めて食べたとき、味が店で買ったものと全然ちがう。とても美味しいと思った。」

これこそ、農家の醍醐味である。

 

サツマイモの畑作り。この時は約4000本のサツマイモの苗植えた。

はじめの年は気温差で半分くらい苗が溶けてしまったこともあった。

 

―夫婦にとって、初めての農業は模索しながらの日々だった。

 

初めての野菜作りだったが、夏は果菜類中心、冬は葉物中心にさまざまな種類の野菜作りに挑戦した。

今まで、チャレンジした野菜は200種類ほど。

種は蒔いたが発芽しなかったり、大きくならなかったり、収穫できなかったものもたくさんある。実際商品になったのは60種類ほどだそう。

 

その中で、この飯地町の土地、場所に合ったものがわかるようになり、だんだんと収穫量も安定してきた。

ただ近年、天候不順により、露地栽培だと収穫量の予測がつかないので、ハウス栽培を増やしている。

「今年の長雨で、露地のズッキーニは昨年の5分の1の収穫だった。」と別府さん。さまざまな苦労もある。

 

きれいに植え付けられた畑。梢さんの器用で丁寧な性格が活きる。

 

もちろん梢さんにとっても初めての野菜作り。

「インターネットで、その野菜にあった種まきの方法を調べることから、全てが模索しながらの日々でした。今も日々模索中ですけどね。」と笑いながらも大変さを語る。

今では種まきから栽培、収穫したものを袋詰めし、販売業務まで一連の作業も梢さんがこなしている。

梢さんが畑で作業している姿を見かける、地元のおじさんたちが「若いのに感心だ」とはなし、有名になるほどだそう。

梢さんの、協力があってこその今のカタチがあるのだと伝わってくる。

 

甘くて美味しいと評判のトマト。ほとんど販売してしまうので、自分たちの口にはなかなか入らない。

 

しっかりと育った小松菜。無農薬で安心していただける。

 

野菜の販売は、箱にセット詰めしたものを固定のお客さんに届けるスタイル。特別に宣伝はしていない。

「お客さんの紹介、そのまたお客さんの紹介で、繋いでもらっている感じでありがたいです。お客さんに顔をあわせてお届けするので、“空心菜がおいしかったよ”とか、“うちはピーマン、なすをメインでお願いね。”とか、直接声がきけるのは嬉しいです。あとアレルギーのある方にも安心して食べていただいています。」

と梢さんは話す。

日中、日があたると暖かいが、夜はぐっと気温が下がる寒暖差のきびしい飯地町。この環境のなかで育った高原野菜は「美味しい」と評判。

おすすめの野菜は白なすだ。「じっくり火を通すと、とろけるようになります。特に天ぷらにすると、美味しいですよ。」

 

野菜のセットを箱に詰めて、お客さんに届ける。

 

採れたてで、しっかりとした味の「カントリーファーム」さんの野菜。

 

恵那市で月1回開催される「図書館マルシェ」などにも出店することがある。

ほかの農家さんや生産者さんと知り合いになったり、意見を交換したりできる、貴重な交流の場だ。

新しいお客さんとのふれあいや、直接声をきけるのもうれしい。一輝くんも、一緒にお店のお手伝いをしてくれるそうだ。

 

可愛らしい店番さん。

 

―初めての「米作り」にも挑戦した。

 

今年は初めて、無農薬、無肥料の米作りにもチャレンジした。

周りの人たちから「それは無理だ」と言われたが「米がとれなくても無農薬のわらができればいい」と割りきって挑戦した。

隣の田んぼと比べると、1週間ほど遅れたが「穂がでてきたときは嬉しかった」と伸一さん。

除草剤も使わなかったが、たくさんの水草が、“ひえ”を抑えてくれたので予想より草も生えなかったそうだ。

実際に300kgのお米を収穫した。

 

「本当にほっからかしだったけれど、よく育ってくれた。来年はどうかな。」と伸一さん。

 

安全で上等な「有機米」。味ももちろん申し分ない。

 

 

―大きな古民家の母屋への引っ越し。大家さんとの隣合わせた暮らしへ。

 

そして、一家は2年前、飯地町内で「広いので誰かに使っていただけたら」と空き家バンクに母屋を賃貸で登録していた纐纈(こうけつ)規久さん、和恵さん夫妻の母屋に新たに住み始めた。

築100年をこえる古民家の母屋に、別府さん一家が住み、その隣の“はなれ”に纐纈夫妻が暮らしている。

 

昔ながらの立派な日本家屋。冬は毎年、数センチの雪がつもる。

 

「まだ、ここに住んで2年ほどですが、何年もずっとここにいたように落ち着いています。」

「わからないことは何でも、和恵さんに教えてもらっています。最近では、この地方の名物の“朴葉寿司”や“こんにゃく”を教えてもらいながら、和恵さんと一緒に作りました。」

梢さんの自然にほころぶ表情から、大家さんとの仲睦まじい生活の様子が伝わってくる。

 

「うちの孫は東京に住んでいて、一人っ子だから、孫がふえて嬉しい。」と笑う和恵さん。

 

また、和恵さんと、一輝くんは大の仲良しだそうだ。

「畑から帰ってきて、一輝の姿がみえないと、たいてい和恵さんの所に行っているんです。」と梢さん。

一輝くんは和恵さんと真剣勝負でトランプをしたり、一輝くんに自転車の乗り方を教えたのは、なんと和恵さんだそうだ。

和恵さんのお孫さんと一輝くんは、偶然同い年。お孫さんが東京から遊びに来たときは、水遊びをしたり、外で駆け回ったり、ふたりで意気投合して遊ぶそうだ。

 

得意なブレードボードで遊ぶ一輝くん

 

―一輝くんの大好きな“和恵さんのおかず”とは。

 

「一輝にトマトを食べれといっても食べないけれど、和恵さんがたべてみてというと、一口は絶対食べる。」と苦笑いの伸一さん。

冒頭に書いたが、一輝くんは、幼いころから野菜が苦手だったそうだ。例えば、きゅうりも、家で作った無農薬のきゅうりを食べたことで、食べられるようになったとか。

そんな野菜が苦手だった一輝くんが、ずいぶんと野菜を食べられるようになったきっかけが“和恵さんのおかず”だ。

「じゃがいもとツナの煮たのが好き」と答える一輝くん。

 

“和恵さんのおかず” 一輝くんの大好きな「じゃがいものツナ」の煮物。この日は豚肉入り。

 

”和恵さんの炊き込みご飯”他にも「かぼちゃの煮物」や「筑前煮」「イチジク煮」など、おかずはその日によって様々。

 

和恵さんは、朝早くから畑に出ている梢さんに変わって、朝、坂の下まで一輝くんを見送り、学校帰りも下まで、迎えにいってくれるそうだ。

そのタイミングで、「これ食べり。」と野菜のおかずが入った鉢を一輝くんに渡してくれる。

一輝くんは、ご飯前に「お腹すいた。」といってその和恵さんがつくってくれたおかずを食べる。

 

「梢さんは朝早くから、畑にでていて、その後も学童でも働いて。本当に感心しています。」と和恵さんが話す。

「いつもおかずをいただいて、本当にありがたいです。そして一輝はここに来てから、お菓子をあまり食べなくなって、お菓子よりご飯を食べたいというようになりました。」と梢さん。

「和恵さんからもらったおかずの残ったお皿をみて、よくこんなに食べるようになったなぁとおもう」

と伸一さんが感心する様子からもそれが伝わってくる。

このように自然に野菜を食べられるようになるのは、親としてとても嬉しいことだろう。

 

「あと、一輝は運動神経もよくなった。飯地の子はみんな体力があるとおもう。」と梢さん。

「帰ってきたら「和恵さん~。」と呼んでくれるけど、その声も大きくなったよ。」と和恵さんも話す。

どうやら、今の暮らしは、一輝くんの身体の成長にとっても、大きく関わっているようだ。

 

田んぼの畦道を駆ける一輝くん。

 

―大家さんたちの特技を習うコト。

 

そして、和恵さんは動物飼いの名人。弱った子猫や、病気のタヌキを保護し、元気になるまでお世話をしてあげるなど、慈愛に満ちた方だ。

野生のヤマドリやフクロウも、和恵さんに懐いていたそうだ。

フクロウは、許可をとり、10年程家の裏山で生息を観察した。

「巣箱をつくってあげたら、子どもを産んで、とても可愛らしかったよ。」と和恵さん。

最近、別府さんが野良猫を飼いはじめたが、警戒心の強かった猫を、和恵さんがお世話をして、ひざにのるようになるまで、懐けてくれたそうだ。

「和恵さんは、動物とおしゃべりができるんです。」とほほ笑む、梢さん。

 

和恵さんは陶芸で動物をつくるのも趣味。飾り棚には、猫や、犬、かっぱなどユニークで可愛らしい作品が沢山ならぶ。

 

また、和恵さんの旦那さんの規久さんは、狩猟の名人である。イノシシの解体も出来る。

伸一さんは、規久さんといっしょに狩猟の現場に同行したり、解体の方法もみせてもらっている。

「この間は、解体したイノシシの毛皮をもらった。それを、今後狩猟に行くときに、衣服などのゴムの匂いなどを消すために使う。」と伸一さん。

纐纈夫妻からの、貴重な知恵や知識が、別府夫妻に伝わっていることがわかる。

 

狩猟の様子を和恵さんがフォトブックにしたもの。表紙には「尊い命に、感謝、感謝。」と書いてあった。

 

―大家さんと、互いに自然におぎない合うこと

 

また、野菜作りでも和恵さん夫妻は先生なのだそうだ。

「野菜は作っているけれど、普段食べる野菜はたくさんもらっています。あど、野菜の作り方も教えてもらっている。」と伸一さん。

「私も、別府さんの作り方をみて、種まきの方法など、なるほどなぁと真似させてもらってます。お友達に野菜を送ってあげるとき、別府さんが使っている、野菜の透明の保存袋に葉物野菜をいれると、傷みにくくなるし、立派にみえるので使うようになりました。」

と和恵さんも嬉しそうに話す。

 

梢さんもお料理上手。お手製の自家製野菜のピザ。

 

いろいろな種類の菜ばなをしゃぶしゃぶにて食べ比べ。農家の醍醐味。

黒キャベツの菜ばながいちばん美味しかったそう。

 

―これからの夢やについて

 

「10年以内に飯地でイタリアン料理の店をやりたいな。うちの野菜をつかって、地元の中高生の子をアルバイト雇えば、雇用もうまれるし、現場体験にもなるから。」と伸一さん。

「私は、お菓子作りが好きなので、町の仲間と一緒にお菓子を作ったり、平凡に穏やかにすごしたいです。」と梢さん。

 

「気分転換になる」と、町のなかまとお菓子作りの試作をする梢さん。

 

―最後に、今の暮らしの感じや思いをどうぞ。

 

梢さん

「お正月もはなれに呼んでもらって、一緒に過ごしたり、和恵さんと息子の誕生日が近いので一緒にお祝いもしました。こんなにお世話になっていいのかなっていうくらい、良くしてもらっています。お二人とも、本当に働きものすぎて。なんでこんなに動けるのっていうくらいすごいです。」

和恵さん

「本当にここに来てくれて、おかげでありがたいです。私はおふたりがお元気で、飯地での仕事になれて、頑張って下されば幸せです。」

伸一さん

「この流れで話すなら“ずっとここにいたいので、お二人ともずっと長生きしてください”かな(笑)」

和恵さん

「私がおらんくなっても、おってくれればいいよ。よろしくお願いします。」

 

ずっと、終始温かい笑顔で、皆を見守るようにお話ししてくださった和恵さんの隣で、「和恵さん、抹茶味の混ぜるの、飲んでるね。」と優しく話す一輝くん。

抹茶味のものとは、和恵さんが飲んでいるカルシウム補給の飲み物だ。

数年前に足腰を痛めて大変だったと話す和恵さんの話をきいて、和恵さんを労わる一輝くんの言葉である。

 

まるで本当の親子、孫のようにひとつの家族として、

自然に温かい関係を築いて暮らしている、纐纈家と、別府家。

纐纈夫妻が暮らしてみえる“はなれ”の囲炉裏におじゃましてのインタビュー。

その温もりがある場所で、心がぽっとあたたかくなる、田舎暮らしの新しいカタチがみえた。

 

纐纈夫妻の“はなれ”にて。和気あいあいと。

(令和4年1月 インタビュー/平井はな恵)

☆お店情報☆

【カントリーファーム・のっぽさんが作る美味しい野菜】

お問合せ電話:080-6957-1810

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